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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1035号 判決 1965年3月31日

控訴人 八尾信用金庫

理由

一、訴外石井孝が控訴人に対し(イ)皇孫御誕生記念定期預金A三一〇番(昭和三五年九月二一日において払戻すべき金額一〇万〇二一六円)(ロ)南九州招待積立預金口座番号四一番(前同日において払戻すべき金額一三万二〇〇〇円)の二口の預金債権を有していたこと、右預金債権には控訴人の承諾がなければ他に譲渡できない旨の特約があつたことは当事者間に争いない。

二、被控訴人主張の右預金債権の被控訴人への譲渡、右譲渡についての控訴人の承諾について検討する。

(証拠)を綜合すると、「訴外石井孝は控訴人と手形割引等の取引があり本件定期預金、積立預金債権は他の預金債権と共に右取引上の債務を担保するため質権が設定され右預金証書は受領欄に右訴外人が捺印して控訴人に交付され同訴外人は控訴人から副本を受取つていたこと、同訴外人は被控訴人に対し取引上の債務金九〇数万円を負担していたが支払のため交付していた手形が決済できなくなつたので被控訴人に対し本件定期預金積立預金債権を譲渡して弁済に充当することとし、昭和三五年七月八日被控訴人と共に控訴人方に到り係員に対し右事情を申述べ譲渡につき承諾を求めたところ係員は訴外石井孝の控訴人に対する債務の決済がつけば御期待に副うよう取りはからいましようと答えたので同訴外人は被控訴人に対し前記預金証書の副本並びに預金の払戻しを受けるために自己の印影のある白紙委任状を交付したこと、しかし右預金債権の名義は変更されなかつたこと、同訴外人は更に翌九日控訴人に対し右預金債権を被控訴人に対し譲渡する旨通知したこと(右譲渡通知は当事者間に争いない)、同訴外人はその後他の債権者である訴外美津和産業株式会社や訴外森川繁次郎に対しても同様控訴人に対する他の預金債権を譲渡することとし同様共に控訴人方に到り譲渡につき承諾を求め同様の回答を得預金証書並びに白紙委任状を右債権者に交付したこと、その後訴外石井孝と右訴外美津和産業株式会社との間で債権額に応じて訴外石井の預金債権を同訴外人の債権者に按分するとの話があつたが右訴外会社は訴外石井から預つた印鑑を使用し訴外石井孝名義で控訴人に対しその後の情況変化により前記被控訴人に対する債権譲渡通知を取消す旨通知し、翌二一日かねて訴外石井孝から預金の払戻しを受けるため受取つていた前記同訴外人の白紙委任状、印鑑証明書を使用し同訴外人の代理人として控訴人方に到り控訴人から控訴人の同訴外人に対する割引した手形の不渡りにより生じた債権金三〇万二二〇〇円を担保権行使により差引くかないしは右債権を自働債権として相殺した同訴外人の預金債権残額金三一万八一二四円を受領したが、右訴外会社は右金員を被訴人等他の債権者になんら配分することなく全額をほしいままに自己の債務の弁済に充当したこと、右担保権の行使ないし相殺により消滅した訴外石井孝の預金債権についてはなんら特定されなかつたこと、」が認められる。

原審並びに当審における証人石井孝の証言並びに被控訴人本人尋問の結果中、債権譲渡につき控訴人の承諾があつたとの被控訴人の主張に副う部分は前掲各証拠と対比し措信することができず、又甲第二号証の一の記載も前掲各証拠に照すときは前示認定を妨げるものではなく、その他右認定を左右するに足る証拠はない。

上記認定事実によると訴外石井孝と被控訴人間においては昭和三五年七月八日本件質権付定期預金、積立金債権の譲渡行為があつたことが窺われるが、しかし右認定事実就中本件定期預金債権につき債権者の名義が訴外石井から被控訴人に書替手続がなされていない事実並びに質権消滅後の本件定期預金積立預金の残余金を受領するため訴外石井が被控訴人に対し同訴外人の委任状を交付している事実に徴するときは控訴人の係員が右預金の残余金を被控訴人が訴外石井の代理人として受領するにつき便宜を計る旨述べたに止まり右譲渡につき控訴人の明示ないしは黙示の承諾があつたとは認めがたい。

三、被控訴人は、訴外石井孝の預金債権譲渡通知は債権譲渡につき控訴人の承諾を求める申込の趣旨をも包含するから、控訴人は商法第五〇九条により諾否の通知義務がありこれを怠つたから承諾が擬制されると主張する。しかし被控訴人主張の右譲渡通知が控訴人の承諾を求める申込の趣旨を包含するとは甲第一号証の記載文言に照しても到底解することはできない。のみならず仮に右譲渡通知に申込の趣旨を含むと解する余地があるとしても、右行為は定期預金契約により既に成立した訴外石井孝と控訴人間の法律関係を当事者外である被控訴人に移転させることについての承諾を求めるもので、控訴人の営業の部類に関する契約の申込ではあつても営業の部類に属する契約の申込とはいうことができない。同条の適用される営業の部類に属する契約とは申込を受ける商人の営業の目的たる行為に属する契約と解すべきである。したがつて被控訴人の右主張は採用できない。

四、してみると預金債権の譲渡につき控訴人の承諾があつたことを前提として右預金債権の支払を求める被控訴人の請求は失当として棄却すべきである。よつて右被控訴人の請求を認容した原判決を取消し、右請求を棄却…。

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